11世紀のチベット仏教の女性聖者マチク・ラプドゥン。ダキニその1
先日、9月9日の白い狐が瞑想中に出てきた話をしましたが・・・私個人としてはダキニ天つながりかな?と思い、ダキニのことを調べていました。
そうしたら、もー、かなり色々深いところで腑に落ちることや驚くことがありましたので、これから数回に分けて記事を書こうと思います。
日本ではダキニ天は稲荷信仰と結びついて、かなり現世利益的な感じの女神様になっておりますが、もともとのダキニというのは、インドでは夜叉とか鬼女とか、墓場にいて死体を食らうと言われている悪鬼の類とされているのですよ・・・(笑)
しかし、先日から狐について調べているうちに、狐が不当に悪く思われているのと同様に、ダキニも何かねじれて解釈されているような気がしたのです。
で、ここは一つ海外のリソースにあたってみるか~と思い、お気に入りのMeggan WattersonのThe Divine Feminineオラクルの解説書を読んでいたところ、マチク・ラプドゥン(Machig Labdron)という11世紀のチベット仏教の女性聖者の存在を知りました。
Meggan Watersonのオラクルカードはこちら~(英語しかない)
でね、このマチク・ラプドゥンについて調べていたらね、もーめちゃくちゃダキニのエネルギーの理解に役立ちました。
チベット仏教におけるダキニというのは、囚われのない自由なエネルギーを持つ神聖な女性性、そしてある意味悪魔的な領域すらもカバーする懐の深い「知恵」の体現者です。
ある時は忿怒相と言われる怒れる姿を見せ、ある時は非常に茶目っ気のあるいたずらな面もあるという女性性です。
この点、仏教的な女神として有名なタラや観音とは全然違う。正直、今まで私はアジアの霊性、特に仏教の中にある女性性って、なんかおとなしいおしとやかなものしかないのかと思っていました。
ところが、このダキニという存在は、そういうおしとやかで優しくて慈悲に満ちた女性性ではなく、もっと動物的というか、人間臭いというか、セクシーというか、一言で言うといわゆるWild Woman的な存在。
※Wild womanについてはこちらに書いています~
ダキニは「Sky goer(空行母)」などと訳されることも多く、実際空を飛ぶ女神と言われていますが、ここでいう「空」とはSkyというだけではなく、Emptiness、つまり空(くう)という意味もあるようです。空=虚空と解釈する学者も多いです。Sky Dancer、つまり天空の舞姫という訳もあるようです。
つまり、「空」を融通無碍に行き来することができる女性的な叡智、それがダキニなのです。
このように何らかの移行(進化、変化)を促す解放者でもあるので、ダキニは単に優しいとか分かりやすい存在ではなく、ある意味ではとても破壊的な様相を表すこともあるのですね。深い・・・。
そして何より重要なことが、このダキニというのがある意味では女性の悟りの象徴でもあるだと考えられているということです。
このダキニのエネルギーを体現する系譜として、先ほど挙げた11世紀のマチク・ラプドゥンがいますが、このマチク・ラプドゥンの前世と言われているYeshe Tsogyal(イエイシェ・ツォギャル)という同じくチベット仏教の女性聖者もいます。チベット仏教って前世重視しますが、この2人はこの2つ(以上)の転生をかけてダキニ的なものを完成させた人たちなのですよね。
余談ですが、チベット仏教って私の固定観念の中ではめちゃくちゃ男性優位という感じがしていまして、旧時代的で興味ねーって思っていたのですがw、実際にはチベット仏教の歴史の中には女性聖者と言われるくらいに道を究めたり、自分から流派を創設するような女性がたくさんいるのです。
これは、とても意外でした。
そして、私がこれまで興味を持ちつつ違和感を感じていたいわゆる「タントラ」の理解も、同時に進みました。端的に言うと、男性優位かつ性的なことだけに偏重したタントラではなく、もっと根源的な非二元(ノンデュアリティ)の教えとしてのタントラです。そして、ダキニはタントラの教えのなかではかなり重要かつ主役級の存在なのです・・・。※タントラに関しての気づきは長くなるので別記事で書きます。
そうしたあれこれに気づかせてくれたのが、マチク・ラプドゥンのemanation(1対1の転生ではなく、マチク・ラプドゥンのエネルギーの1つの表れとして複数存在する可能性のある転生の形態のこと)であると言われ、女性かつ外国人としては現在唯一ラマ(Lama)の称号を許可されている現代アメリカ人の女性Tsultrim Allione(ツルティム・アリオーネ)の一連の著作でした。
※上記のWomen of Wisdomはちょっと古いので、できたらもっと新しい英語版のWisdom Risingの方がいいかも(日本語版はありません)。
ツルティム・アリオーネさんは、1947年生まれ。若くしてチベット仏教の道に入り、20代前半チベットの僧院で尼僧として修業をした後、欧米で普通に結婚して生活する道を選んで還俗します。その理由も実にダキニ的で、「性欲が高まったから。子供も欲しかったし」とか(恋多き女性で結婚3回してますし・・すごいねーw)
そんな彼女は、還俗してから1回目の結婚で2人の娘を生み、さらにその後の2回目の結婚でイタリア人の男性と、1980年双子をもうけるのですが、そのうちの1人がSIDS(乳児突然死症候群)で突然亡くなってしまうという悲劇に見舞われます。
そして、もともとうまくいっていなかった結婚生活がさらにうまくいかなくなるという人生のどん底で、もう一度チベット仏教の中にある女性聖者・覚者に関する情報を求めてチベットへ渡り、そこで上述した11世紀のチベット仏教の女性覚者・マチク・ラプドゥンに出会うんですねー。
このマチク・ラプドゥンは、ダキニの化身と呼ばれており、彼女が創始したチュー(Chod)というタントラの一派は爆発的に信者を獲得し広まりました。そのすごさたるや、それまではインドからチベットへ一方通行の仏教教義の伝播だったのが、はじめてこのチューの教えがチベットからインドへ逆輸入されるくらい盛んになったという、それくらい影響力のあるものだったのです。
一方マチク・ラプドゥンは、若いころに一時尼僧だった時代を経て、還俗して普通の結婚生活と3人の子育てを営んでいた普通のお母さんでもありました。そして、その当たり前の普通の人生の中でチベット仏教のタントラの教えを深めていったのですよね~(さすがアリオーネさんと経歴も似ている!)。
なお、上記でもお伝えしましたが、マチク・ラプドゥンの言うタントラは、一般的に日本や欧米で一般にイメージされているような性の儀式にほぼ特化したタントラではなく、そういったことも否定せず含みつつより広義のノンデュアリティの教義のことだと考えてください。
で。
マチク・ラプドゥンの創始したチューという一派の中でとても重要な修行があって、それがなんと、
デーモン(悪魔)を育んで仲間にする
というものなのです。
す、すごいよね・・・!?
悪魔払い(エクソシスム)はいろいろな文化の中にありますが、なんと悪魔を追い払うのではなく、仲間にしてしまうというのは斬新すぎます!
・・・そして、ここで私が強烈に思い出したのが、シュタイナーが、後のバイオダイナミック農法の礎となる1924年農業講座を開催したホストであるカイザーリンク伯爵夫人に語った秘教的な会話です。
そちらから引用。
「先生(シュタイナー)、私(カイザーリンク伯爵夫人)がここで地表に立っているということは、その真下、地球に内奥に黄金の国があるということですね。では、私が罪から解放された清らかさを持ちながらその深みに降りていったら、デーモン(悪魔)たちは私を害することはできませんよね、そして、これらのデーモン(悪魔)たちを通り抜けて、黄金の国に到達することができる、ということですか?」
彼は(シュタイナー)は答えました。「もしあなたが、キリストを伴って降下するならば、デーモン(悪魔)たちはあなたを傷つけることはできませんね。ですが、さもなければこれらのデーモン(悪魔)たちはあなたを亡き者にしてしまうでしょう。」そして彼は、こう強調して付け加えたのです。
「ですが、まさにこのデーモン(悪魔)たちが、私たちの助け手となるのです。そうです、これは本当に真実なのですよ。この道は真の道ですが、とても困難な道でもあります。」
このシュタイナーが語っているデーモン(悪魔)たちを助け手とするという真の道、その一つの方法がマチク・ラプドゥンのチューというチベット仏教の宗派なのでしょうね。
というわけで次の記事では、デーモン(悪魔)を仲間にするとうチベット仏教のチューの技法について書いていきます・・・。